なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注49

公開: 2021年5月3日

更新: 2021年5月31日

注49. 米国における労働人口の高齢化

1980年代の中頃、米国社会では、企業のエクゼンプト社員として働いてきた、専門職の社員が65歳以上になり、企業の第一線を退いて、コンサルタントとして独立したり、小さな企業を起業する人々が出現した。このことは、大企業の中心で働いてきた有能なベテラン社員が、社内で急速に減ってきたことを意味していた。

彼らの多くは、10代後半で第2次世界大戦中、兵士として従軍し、戦後、米国社会に戻り、大学へ進学して、専門知識を身につけ、企業で専門技術者などとして働き始めた人々であった。また、その子供達であるベビーブーム世代の50歳前後の人々であった。米国社会の場合、エクゼンプト社員には定年制が適用されないため、企業に残る選択肢もあったが、そうせずに、独立した人は多かった。

このように、企業から、ベテラン社員が一度期に居なくなると、彼らの知識や経験を引き継ぐことが難しく、企業内に蓄積されていた経験知が一挙に失われる。例えば、過去のプロジェクトの失敗から学んだことが、その当事者たちが企業を去ったため、企業内から失われるのである。いくら机上で理論を学んできた高学歴で優秀な若者がいても、かつて経験されたものと同じ間違いが、再び繰り返されるのである。IBMのような大企業で、そのような問題が起こっていた。それは、組織自身に、歴史に学んで、失敗を繰り返さないようにする学習能力が組込まれていなかったからである。センジは、そのことを指摘し、米国企業の組織の弱点であると指摘した。このセンジの指摘を受けて、米国の大企業の多くが、1990年代の前半に、組織改革に着手した。

参考になる読み物

最強組織の法則、ピーター・センゲ、徳間書店、1995
Knowledge Creating Company、I. Nonaka、Harvard Business Review、1990